
資金収支計算書と事業活動計算書の見方|保育園の決算書をやさしく
税理士さんから届いた決算書をひらくと、「資金収支計算書」と「事業活動計算書」という、よく似た名前の表が並んでいる。どちらも最後の行はプラスなのに、金額がまるで違う。理事会で「今年はどうだったの」と聞かれたら、どっちの数字を答えればいいんだろう——。
決算書は、毎年見ているのに、なんとなく苦手なままになりやすい書類です。でも、2つの表が「何を数えているか」がわかると、ぐっと読みやすくなります。この記事では、保育園・認定こども園の事務担当の方が、決算書のどこを見ればいいかを、例の数字を使って一緒に整理します。
結論:資金収支計算書は「お金の出入り」、事業活動計算書は「1年の成果(その年の収益と費用の差)」を表す書類です。数字が違うのは、遊具や設備を買ったお金・積立・減価償却費などの扱いが2つの表で違うからで、どちらかが間違っているわけではありません。まずは、①資金収支計算書で予算とのズレを、②事業活動計算書で前の年とのちがいを見る。この2つから始めれば十分です。
決算書が読みにくいのは、事務の方の力不足ではありません。もともと2つの表は、同じ1年を別の角度から数えているので、並べて見ると混乱して当然なのです。
何が起きているか|2つの表は「数えているもの」が違う
社会福祉法人が運営する園では、社会福祉法人会計基準にそって、毎年度、主に次の3つの書類(計算書類)を作ります。
- 資金収支計算書:その年度に、お金がいくら入って、いくら出ていったか
- 事業活動計算書:その年度の活動で、どれだけの収益があり、どれだけの費用がかかったか
- 貸借対照表:年度末の時点で、園にどんな財産と借りがあるか
このうち、事務の方が迷いやすいのが最初の2つです。

資金収支計算書|「お金の出入り」を3つの区分で見る
資金収支計算書は、家計簿に近い表です。お金の動きを、次の3つの区分に分けて並べます。
- 事業活動による収支:委託費・給付費などの収入と、人件費・事業費・事務費などの支出。毎年の保育の運営そのもの
- 施設整備等による収支:遊具や設備の購入、建物の修繕など、形に残るものへの支出と、そのための補助金や借入金
- その他の活動による収支:積立資産への積み立てや取り崩し、ほかの拠点とのお金のやりとりなど
いちばん下には「当期資金収支差額合計」と、年度末に残った支払資金(おおまかには、すぐ使えるお金から、すぐ払うお金を引いた残り)が出てきます。
そして資金収支計算書には、もう1つ大事な特徴があります。「予算」と「決算」と「差異」の列が並んでいることです。年度のはじめに立てた予算に対して、実際はどうだったかを、科目ごとに見くらべられるようになっています。
事業活動計算書|「1年の成果」を段階ごとに見る
事業活動計算書は、その年度の活動の成果を見る表です。会社でいう損益計算書に近いものですが、社会福祉法人は利益を目的にしないので、「利益」ではなく「増減差額」という言葉を使います。
- サービス活動増減の部:保育事業の収益と、人件費・事業費・事務費・減価償却費などの費用。ここの差額が、本業の成果です
- サービス活動外増減の部:受取利息や借入金の利息など、本業の外のもの
- 特別増減の部:施設整備の補助金を受けたときや、固定資産を売ったり捨てたりしたときなど、その年だけの特別なもの
こちらは「当年度」と「前年度」の列が並んでいるのが特徴です。去年とくらべて、どこが増えて、どこが減ったかが見えます。
具体例|同じ1年なのに、差額が300万円と770万円になる
たとえば、ある園の1年を、わかりやすく丸めた数字で見てみます(引当金などの細かい差はここでは省いています)。
- 委託費などの収入:1億2,000万円
- 人件費:8,400万円、事業費:1,800万円、事務費:1,000万円
- 年度のはじめに、園庭の遊具を300万円で購入(この年の減価償却費は、仮に30万円とします)
- 将来の修繕に備えて、200万円を積立資産に積み立て
これを2つの表に当てはめると、次のようになります。
| 資金収支計算書(お金の出入り) | 事業活動計算書(1年の成果) | |
|---|---|---|
| 委託費などの収入・収益 | +1億2,000万円 | +1億2,000万円 |
| 人件費・事業費・事務費 | −1億1,200万円 | −1億1,200万円 |
| 遊具の購入 | −300万円 | 出てこない |
| 減価償却費 | 出てこない | −30万円 |
| 積立資産への積み立て | −200万円 | 費用には出てこない |
| 差額 | +300万円 | +770万円 |
差額のちがいは、770万円−300万円=470万円。中身は、遊具の300万円+積立の200万円−減価償却費の30万円=470万円で、ぴったり説明できます。
ポイントは次の3つです。
- 遊具を買ったお金は、お金としては出ていくので資金収支計算書には出ますが、遊具は何年も使う「財産」なので、事業活動計算書では一度に費用にしません。
- そのかわり、事業活動計算書では、遊具を使う年数に分けて少しずつ費用にします。これが減価償却費です。お金は出ていかないので、資金収支計算書には出てきません。
- 積立は、お金を別の口座や科目に移しているだけなので、お金の出入りとしては出ますが、その年の費用にはなりません。
つまり、「どちらの数字が正しいか」ではなく、それぞれの表が違う質問に答えているのです。「今年、手元のお金はいくら増えたか」なら資金収支計算書、「今年の運営で、収益と費用の差はどうだったか」なら事業活動計算書を見ます。
なお、事業活動計算書には「国庫補助金等特別積立金取崩額」という、費用からマイナスする科目が出てくることがあります。これは、施設整備の補助金で買った建物や設備の減価償却費のうち、補助金でまかなった分を打ち消すためのものです。名前は難しいですが、「補助金で建てた分の減価償却費は、園の負担としては数えない」くらいに受け止めておけば大丈夫です。
影響|読み方がわかると、説明と次の予算がラクになる
2つの表の役割がわかると、事務の仕事の中で、こんな場面が少しラクになります。
- 理事会や園長への説明:「お金の出入りでは+300万円、遊具の購入と積立を除いた1年の成果では+770万円でした」と、2つの数字をつなげて話せます。
- 次年度の予算づくり:資金収支計算書の「差異」の列を見ると、予算の立て方がずれやすい科目がわかります。翌年の予算の見積もりが、ぐっと現実に近づきます。
- 監査や委託費の報告:指導監査では、予算と決算の差が大きい科目や、委託費の使い方について聞かれることがあります。差の理由を自分の言葉で言えるだけで、落ち着いて答えられます。委託費の区分の考え方は、委託費の3区分と弾力運用、どこまで動かせるかの基本 で整理しています。
反対に、決算書を「税理士さんが作ってくれたもの」としてしまっておくと、予算と実際のズレが毎年くり返されたり、聞かれたときに答えにつまったりしがちです。全部を読みこなす必要はありません。見る場所を決めておくだけで十分です。
明日やること|見る場所を3つに絞る
決算書を前にしたら、次の順で見てみてください。
1. 資金収支計算書の「差異」の列で、ズレの大きい科目に印をつける
予算と決算の差が大きい科目に、付せんや蛍光ペンで印をつけます。目安は、金額の大きい科目から3つくらいで十分です。それぞれ「なぜずれたか」を1行で書き添えます(例:「年度途中で保育士を1名増やした」「光熱費の単価が上がった」)。
資金収支計算書の差異の列が大きい科目には、備考欄に理由を書く欄がある様式も多いので、そこを読むのも手がかりになります。
2. 事業活動計算書の「サービス活動増減差額」を、前年度とくらべる
本業の成果にあたる「サービス活動増減差額」の、当年度と前年度をくらべます。大きく変わっていたら、人件費・事業費・事務費・減価償却費のどれが動いたのかを見ます。
3. 2つの表の差額が違う理由を、1行で言えるようにする
具体例のように、「遊具の購入と積立があったから」「大きな修繕があったから」など、差の理由を1行でメモしておきます。この1行が、理事会や監査での説明の土台になります。
どれも、税理士さんや法人本部の経理担当に「ここがずれているのは、何が理由ですか」と聞きながら進めて大丈夫です。わからないところを聞けることも、決算書を読む力の1つです。
確認チェックリスト
最低ラインは、①2つの表の役割の違いを言える ②予算と決算のズレが大きい科目を把握している、の2点です。ほかは、できるところから少しずつで十分です。
- 【最低ライン】資金収支計算書は「お金の出入り」、事業活動計算書は「1年の成果」と、役割の違いを説明できるか
- 【最低ライン】資金収支計算書の「差異」の列で、ズレの大きい科目を3つほど把握しているか
- ズレの大きい科目について、理由を1行で書き添えているか
- 事業活動計算書の「サービス活動増減差額」を、前年度とくらべたか
- 2つの表の差額が違う理由(設備の購入・積立・減価償却費など)を、1行で言えるか
- 年度中に買った設備や遊具、大きな修繕が、どちらの表のどこに出ているか確かめたか
- 積立資産への積み立て・取り崩しの金額を把握しているか
- わからない科目を、税理士さんや法人本部に質問するメモを作ったか
- 気づいたことを、次年度の予算づくりのメモに残したか
なお、ここで紹介したのは社会福祉法人会計基準にもとづく決算書の基本的な見方です。株式会社やNPO法人などが運営する園でも、委託費の使い方の報告などで、資金の収支を示す書類の提出を求められることがあります。様式や細かい取り扱いは、法人の種類や自治体によって違うため、その年度の自治体の案内や担当課、顧問の税理士さんに確認してください。

決算書は、数字がぎっしり並んでいて、最初は誰でも身構えてしまう書類です。でも、その数字の1つひとつは、この1年に園で毎日続けてきた保育や事務の積み重ねでもあります。給食を作り、遊具を直し、職員の給与を払い、将来のために少しずつ積み立ててきた——決算書は、その1年を数字で書いた記録です。
全部をわかろうとしなくて大丈夫です。今年は「差異」の列に印をつけるところまで。来年はそこに、前の年とのちがいを1行足す。そうやって1年ずつ、決算書は読める書類になっていきます。
まずは、付せんを1枚。ズレの大きい科目に貼ることから始めてみましょう。
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