
保育園の労働条件通知書・雇用契約書|書く項目と整え方
来週から、パートの保育補助さんが1人入ってくる。前任者のフォルダから「労働条件通知書」のひな形を開いてみると、作成日は数年前のまま。「就業場所:本園」「勤務時間:シフトによる」——これで本当に足りているのかな、と画面の前で手が止まる。
秋は、10月の最低賃金の改定にあわせて時給を見直したり、年度途中の採用や、来年度の契約更新の準備が始まったりと、労働条件の書類にさわる機会が増える時期です。
結論:労働条件通知書は、「契約期間」「場所と仕事」「時間と休み」「賃金」の4つのまとまりで見直すと、抜けに気づきやすくなります。保育園でとくに見直したいのは3つ。①場所と仕事の「変更の範囲」(他園への異動や、調理・事務の応援があるか) ②シフト勤務の書き方(「シフトによる」だけにしない) ③パート・有期の職員に追加で書く項目(更新の上限、昇給・賞与・退職手当の有無、相談窓口)。
ひな形が古くなっているのは、前任者の手落ちでも、あなたの見落としでもありません。ルールが少しずつ変わってきた書類なので、どの園でも一度は見直しが必要になるものです。順番に見ていけば大丈夫です。
何が起きているのか|労働条件通知書と雇用契約書の違い
まず、似た名前の2つの書類を整理しておきます。
| 労働条件通知書 | 雇用契約書 | |
|---|---|---|
| どんな書類か | 園(使用者)が、働く条件を職員に知らせる書類 | 園と職員が、条件に合意したことを残す書類 |
| 法律上の扱い | 労働基準法で、一定の項目の明示が義務 | 作成そのものは義務ではない(労働契約法では、契約内容をできるだけ書面で確認することが求められています) |
| 署名 | なくてもよい | 双方が署名・記名する |
現場では、2つをひとつにした「労働条件通知書 兼 雇用契約書」を使う園が多くあります。通知の義務を果たしながら、職員の署名で「合意した」ことも残せるので、事務としても管理しやすい形です。
そして見直しが必要になりやすいのは、2024年4月から、明示する項目が増えたためです。主な追加点は次のとおりです。
- すべての職員:就業場所と業務の「変更の範囲」
- 有期契約の職員:契約更新の上限の有無と内容(通算の契約期間や更新回数の上限)
- 無期転換を申し込める更新のとき:申し込めること(申込機会)と、転換後の労働条件
それより前に作ったひな形には、これらの欄がないことがあります。今の書類にあるかどうかを、まず確かめてみましょう。
書く項目を4つのまとまりで見直す

労働基準法で書面での明示が必要な項目は、次の4つのまとまりに分けると見通しがよくなります。厚生労働省の「モデル労働条件通知書」もほぼこの並びなので、手元のひな形と見比べるときの物差しにもなります。
1. 契約期間|期間・更新・退職
- 契約期間:期間の定めがない(無期)か、ある(有期)か。有期なら「2026年4月1日〜2027年3月31日」のように始まりと終わりを書きます。
- 更新の有無と、更新するかどうかの判断基準(有期の場合):「勤務成績、園児数の見込み、園の経営状況により判断する」など。
- 更新の上限(有期の場合):「上限なし」でも、「通算契約期間◯年まで」でも、あるかないかを書くことが必要です。
- 退職に関すること:自己都合で退職するときの申し出の時期、定年、解雇の事由など。就業規則を示して「就業規則第◯条による」と書く形でもかまいません。
試用期間を設けている園は、その期間もここに書いておくと、入職後の行き違いを防げます。
2. 場所と仕事|「変更の範囲」まで書く
ここが、保育園でいちばん見直しが要りやすいところです。
- 雇い入れ直後の就業場所と業務:「◯◯保育園」「0〜2歳児クラスの保育補助」など。
- 変更の範囲:将来、配置が変わる可能性がある範囲を書きます。
| 園の状況 | 書き方の例 |
|---|---|
| 1園だけ運営していて、異動はない | 就業場所(変更の範囲):変更なし |
| 法人が複数の園を運営し、異動がありうる | 就業場所(変更の範囲):法人が運営する保育園・事業所 |
| 保育士が、人手の足りない日に調理や事務を手伝うことがある | 業務(変更の範囲):保育業務および園の運営にかかわる業務全般 |
| パートの調理員で、調理以外は頼まない | 業務(変更の範囲):変更なし |
「本当は分園や系列園への応援があるのに、『変更なし』と書いてある」という食い違いは、異動をお願いするときに職員を戸惑わせてしまいます。今の園の運営で、実際にありうる範囲を書いておきましょう。
3. 時間と休み|シフト勤務は「シフトによる」だけにしない
- 始業・終業の時刻、休憩時間
- 所定時間外労働(残業)の有無
- 休日、休暇(年次有給休暇の付与など)
- 交替制で働く場合の、勤務の切り替え方
保育園は早番・中番・遅番の交替勤務が多いので、「勤務時間:シフトによる」の一言だけになっていないかを確かめます。厚生労働省のシフト制についての留意事項では、シフトで決まる場合でも、基本的な勤務パターンを書いたうえで、具体的な日は勤務割表で示す形が示されています。
始業・終業時刻:次の勤務パターンを組み合わせ、毎月◯日までに翌月の勤務割表で通知する。
早番 7:00〜16:00/中番 8:30〜17:30/遅番 10:00〜19:00(いずれも休憩60分)
1か月単位の変形労働時間制をとっている園は、その旨と、勤務割表の示し方もここに書いておきます。パートで「週3日・1日4時間程度」のように働く職員には、曜日や時間帯の目安、シフトを決める時期を書いておくと、本人も予定を立てやすくなります。
4. 賃金|手当の名前と、支給の条件まで
- 賃金の決め方:月給・日給・時給の別と金額
- 計算方法:残業代などの割増賃金の率
- 締め日と支払日、支払い方法:「毎月末日締め、翌月15日に口座振込」など
- 昇給に関すること
保育園では、処遇改善加算をもとにした手当を支給していることが多いので、手当の名前だけでなく、どんな条件で支給されるか(「処遇改善手当:職位・経験年数に応じて園の規程により支給」など)を書いておくと、職員にも伝わりやすくなります。資格の有無で時給が違う場合も、その区分を書いておきましょう。
パート・有期の職員に追加で書くこと
パートタイム・有期雇用労働法では、短時間の職員や有期契約の職員に、次の4つを文書などで明示することが求められています。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 雇用管理の改善などについての相談窓口(「園長 ◯◯」「法人事務局 ◯◯」など、担当者の名前や部署)
「あり」「なし」をはっきり書くのがポイントです。「業績による」と書く場合は、どういうときに出るのかを一言添えておくと、あとで「去年はもらえたのに」という行き違いを減らせます。
有期契約の職員を更新するときには、もう2つ確かめておきます。
- 通算の契約期間が5年を超える契約に更新するとき:無期転換を申し込める回の更新では、申し込めることと、転換後の労働条件を通知書に書きます。
- 更新の上限を新しく設けたり、短くしたりするとき:あらかじめ、その理由を本人に説明しておくことが求められています。
渡し方と保管|メールで送るなら、本人の希望を確かめてから
労働条件通知書は、働き始める前(契約を結ぶとき)に渡します。入職日に慌てて渡すより、内定を伝えたあと、入職の1〜2週間前までに渡して、気になる点を聞ける時間をとれると安心です。
紙のほかに、本人が希望した場合は、メールや連絡ツールで送ることもできます。ただし、印刷して書面にできる形(PDFなど)で送り、「メールでの受け取りを希望します」というやりとりも残しておきましょう。
渡したあとは、職員の名簿や賃金台帳と一緒に保管します。条件が変わったとき(時給の改定、勤務時間の変更、雇用形態の切り替えなど)は、口頭だけで済ませず、変更後の条件を書いた通知書(または変更の合意書)を改めて交わしておくと、記録として追いやすくなります。
具体例|パートの保育補助さんの通知書を見直す
冒頭の場面で、ひな形を見直したらどう変わるかの例です。
| 項目 | 見直す前 | 見直したあと |
|---|---|---|
| 契約期間 | 1年 | 2026年10月15日〜2027年3月31日(更新あり。上限なし) |
| 就業場所 | 本園 | ◯◯保育園(変更の範囲:変更なし) |
| 業務 | 保育補助 | 1歳児クラスの保育補助(変更の範囲:保育補助および園の環境整備) |
| 勤務時間 | シフトによる | 月・水・金の9:00〜13:00を基本とし、毎月20日までに翌月の勤務割表で通知 |
| 昇給・賞与・退職手当 | (記載なし) | 昇給:あり(年1回、評価による)/賞与:なし/退職手当:なし |
| 相談窓口 | (記載なし) | 主任 ◯◯ |
どれも、新しく何かを決めた変更ではありません。園の中ではもう決まっていることを、紙の上に書き出しただけです。だからこそ、見直しは思ったより早く終わります。
明日やること
一度に全員分を直さなくて大丈夫です。明日は、次の2つだけやってみてください。
- いま使っているひな形を開いて、「変更の範囲」の欄があるかを確かめる
- パート・有期職員用のひな形に、昇給・賞与・退職手当の有無と相談窓口の欄があるかを確かめる
欄がなければ、厚生労働省のモデル労働条件通知書と見比べて、ひな形に1行ずつ足していきましょう。今いる職員の分は、次の契約更新や条件の変更のときに、新しいひな形へ切り替えていけば十分です。
確認チェックリスト
最低ラインは、①「変更の範囲」の欄がある ②シフト勤務の基本パターンが書いてある ③パート・有期職員に昇給・賞与・退職手当・相談窓口を書いている、の3点です。
- 【最低ライン】就業場所と業務に「変更の範囲」の欄があり、園の実態と合っているか
- 【最低ライン】始業・終業時刻が「シフトによる」だけでなく、基本の勤務パターンと勤務割表の示し方が書いてあるか
- 【最低ライン】パート・有期の職員に、昇給・賞与・退職手当の有無と相談窓口を書いているか
- 有期契約の場合、更新の有無・判断基準・更新上限の有無が書いてあるか
- 無期転換を申し込める更新のとき、申込機会と転換後の条件を書いているか
- 賃金の締め日・支払日・支払い方法と、手当の支給条件が書いてあるか
- 退職の申し出の時期や解雇の事由を、本文か就業規則の条文で示しているか
- 働き始める前に渡し、職員の署名(または受け取りの記録)を残しているか
- メールで送る場合、本人の希望を確かめ、PDFなど印刷できる形で送っているか
- 時給や勤務時間が変わったとき、変更後の条件を書面で交わしているか
なお、記載の仕方や就業規則との関係は、園の雇用形態や規程によって変わります。迷うところは、厚生労働省のモデル労働条件通知書や、労働基準監督署・社会保険労務士に確認してください。

労働条件通知書は、事務室の引き出しで静かに眠っていることの多い書類です。それでも、新しく入る職員にとっては、「この園で、どんなふうに働くのか」を初めて形で受け取る1枚でもあります。
ひな形が古かったと気づけたのは、あなたがちゃんと書類を開いて、確かめようとしたからです。全部を一度に直さなくても、次に渡す1枚から整えていけば、それで十分です。
まずは、「変更の範囲」の欄を探すところから。その1行が、職員が安心して働き始めるための土台になります。
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