
保育園の変形労働時間制|1か月単位をシフトに取り入れる基本
土曜保育のある週だけ、どうしても週40時間を超えてしまう。
行事の前の週は、準備で遅くまで残る職員が出る。その代わり翌週は早く帰ってもらっているのに、給与計算のときは超えた週の分だけきっちり残業代が立つ。「ならしたら足りていないのに、なんで残業になるんだろう」——シフト表を前に、そんなもやもやを抱えたことはありませんか。
保育の勤務は、もともと凸凹します。早番・遅番、土曜開所、行事、面談週間。どれも園にとって必要なもので、なくすことはできません。その凸凹を、ひと月というまとまりでならして考えられるようにする仕組みが、1か月単位の変形労働時間制です。
結論:やることは3つです。①ひと月の「総枠」(40時間×暦日数÷7)を出す/②その枠の中に収まるシフトを、月が始まる前に確定させる/③労使協定か就業規則で決めて、必要な届出をする。むずかしそうに見えますが、いちばん大事なのは「シフトを事前に決めきる」ことだけです。ここさえ守れれば、あとは計算の話です。
今日ぜんぶ導入しなくて大丈夫です。まずは仕組みの形だけ、一緒に見ていきましょう。
何が起きているか──原則は「1日8時間・週40時間」
労働基準法の原則は、1日8時間・1週40時間です。この線を超えて働かせるには、36協定(時間外・休日労働に関する協定)を結んだうえで、割増賃金を払うことになります。
ここで保育の現場が引っかかるのが、「週」の区切りです。
たとえば、1日の勤務が8時間ぴったりの職員がいるとします。月曜から金曜まで働けば40時間。ここに土曜保育が1日入ると、その週だけ48時間になります。次の週に平日1日を休みにして32時間にしても、原則のままだと、超えた週の8時間はそのまま時間外です。翌週に減らした分で相殺することはできません。

1か月単位の変形労働時間制は、この「週ごとに区切る」という見方を、ひと月というまとまりに置き換える制度です(労働基準法第32条の2)。ひと月を平均して週40時間以内に収まっていれば、特定の週が40時間を超えても、特定の日が8時間を超えても、それだけでは時間外にならないという形になります。
なお、変形労働時間制を入れても、36協定が不要になるわけではありません。枠を超えて働いてもらう可能性があるなら、36協定は今までどおり必要です。36協定まわりは 保育園の36協定と残業時間の管理、まず押さえる基本 にまとめています。
ひと月の「総枠」を出してみる
いちばん最初にやるのが、この計算です。式はひとつだけです。
総枠(時間)= 40時間 × その月の暦日数 ÷ 7
月ごとの数字は決まっているので、表にして貼っておけば毎回計算しなくてすみます。
| その月の暦日数 | ひと月の総枠 |
|---|---|
| 31日 | 177.1時間 |
| 30日 | 171.4時間 |
| 29日 | 165.7時間 |
| 28日 | 160.0時間 |
たとえば9月は30日なので、171.4時間。この中に、その職員の1か月分の所定労働時間(シフトで決めた勤務時間の合計)が収まっていればOK、という見方になります。
1日8時間の職員なら、171.4 ÷ 8 = 21.4 なので、その月に組める勤務日は21日までという計算です。22日組むと176時間になり、総枠を超えてしまいます。超えた分は、シフトを組んだ時点で最初から時間外の扱いになります。
補足:常時使用する労働者が10人未満の一部の事業(保健衛生業など)には、週44時間という特例が設けられています。保育所がこれに当たるかどうかは、園の規模や事業の区分によって変わります。該当しそうな小規模の園は、自己判断せず所轄の労働基準監督署に確認してください。ここを間違えると総枠がまるごとずれてしまうので、原則の40時間で組んでおくほうが安全です。
決めておくのは4つ
制度を入れるには、労使協定を結ぶか、就業規則などで定めるかのどちらかが必要です。どちらの方法でも、決めておく中身はほぼ同じです。
1. 対象になる職員の範囲
「全職員」でも「常勤保育士のみ」でも構いませんが、あいまいにしないことが大切です。パート職員を含めるのかどうかは、必ずはっきりさせておきます。含めない場合、パートの勤務は従来どおり1日8時間・週40時間で数えます。
2. 対象期間と起算日
「毎月1日から末日まで」が組みやすい形です。園によっては給与の締めに合わせて「毎月16日から翌月15日まで」とすることもあります。給与計算の締めと期間をそろえておくと、月末の作業がぐっと楽になります。締めまわりの流れは 保育園の勤怠から給与計算まで、締め日から支給日までの流れ を参考にしてください。
3. 労働日と、その日ごとの労働時間
ここが制度のいちばんの核心です。期間が始まる前に、誰がどの日に何時間働くかを決めきっておく必要があります。「後から状況を見て決める」は、この制度では認められません。
実務では、早番・遅番・土曜番といった勤務パターン(シフトの型)と、その始業・終業時刻を規定に書いておき、月ごとのシフト表で「誰がどの日にどの型に入るか」を確定させる形が一般的です。
4. 有効期間(労使協定で定める場合)
労使協定で導入するときは、有効期間を定めます。1年程度としておき、毎年結び直す園が多いです。
届出について
- 労使協定で導入する場合:所轄の労働基準監督署への届出が必要です。
- 就業規則で導入する場合:常時10人以上の職員がいる事業場は、就業規則そのものの届出が必要です。
いずれにしても、職員に周知するところまでがセットです。周知の進め方は 保育園の就業規則、作成・変更の手順と職員への周知のしかた にまとめています。
いちばんの落とし穴──「シフトの後出し変更」
制度を入れた園でつまずきやすいのが、ここです。
1か月単位の変形労働時間制は、あらかじめ特定した勤務予定があってはじめて成り立つ制度です。園の都合で自由にシフトを動かせる制度ではありません。
そして、保育の現場でシフトが動く理由は、たいてい急なものです。
- 職員が発熱で急に休んだ
- 子どもの人数が読みより増えて、遅番をもう1人立てたい
- 行事の準備が押して、その日だけ延ばしたい
こういうとき、予定を超えて働いてもらった分は、素直に時間外として計算するのがいちばん安全です。「別の日を早上がりにしたから相殺」という運用は、あとから指摘を受けやすい形になります。
就業規則に変更の事由を具体的に定めておけば、例外的にシフトの変更ができるとされていますが、これは「園がいつでも自由に動かしてよい」という意味ではありません。変更できる場面を限定して書き、それ以外は時間外で処理する。この線引きをはじめに決めておくと、毎月の判断で迷わなくなります。
急な欠員のときの動き方は 保育園の急な欠勤・欠員に備える、シフト応援体制のつくり方 に整理しています。人の配置そのものの考え方は 配置基準を満たすシフトの組み方、基本の手順 を合わせて見てみてください。
残業は「3つの段階」で数える
変形労働時間制を入れると、時間外の数え方が少しだけ変わります。順番に見れば大丈夫です。上の段階で数えた時間は、下の段階では二重に数えない、というのがコツです。
① 日ごとに見る
- 8時間を超える勤務をあらかじめ決めた日(例:9時間の勤務日)→ その決めた9時間を超えた分が時間外
- それ以外の日 → 8時間を超えた分が時間外
② 週ごとに見る
- 40時間を超える勤務をあらかじめ決めた週 → その決めた時間を超えた分が時間外
- それ以外の週 → 40時間を超えた分が時間外
- ただし、①で数えた時間は除きます
③ ひと月で見る
- 総枠(30日の月なら171.4時間)を超えた分が時間外
- ①②で数えた時間は除きます
言葉にすると複雑ですが、実際の作業は「日→週→月の順に見て、すでに数えた分は飛ばす」だけです。勤怠システムを使っている園なら、変形労働時間制の設定をオンにすれば自動で計算してくれるものがほとんどです。手計算で回すつもりなら、導入前に一度、前月の実績で試し計算をしてみるのがおすすめです。そのうえで、月末に慌てないための締めの段取りは 保育園の勤怠から給与計算まで、締め日から支給日までの流れ にまとめています。
対象から外す・配慮する職員がいます
全職員に一律で適用する前に、確認しておきたい人たちがいます。
| 対象 | 取り扱い |
|---|---|
| 18歳未満の職員 | 原則として変形労働時間制の対象外です(一部例外あり) |
| 妊産婦(妊娠中・産後1年以内) | 本人が請求した場合、1日8時間・週40時間を超えて働かせることはできません |
| 育児や介護を担う職員 | 育児・介護に必要な時間を確保できるよう、配慮が求められます |
とくに妊産婦の請求は、申し出があった時点でシフトを組み直す必要があります。制度を入れるときに、「請求があったらどう組み替えるか」まで決めておくと、その場で慌てずにすみます。産休・育休まわりの手続きは 職員の産休・育休、手続きの流れと代替職員のそろえ方 にまとめています。
有給休暇の扱いも一言だけ。有給を取った日は、シフトで決めた時間を働いたものとして扱います。有給の日を0時間として計算し直すのではありません。年5日の取得義務まわりは 保育園の有給管理、年5日取得をシフトに組み込む手順 を見てみてください。
向いている園、そうでもない園
正直に書きます。すべての園に必要な制度ではありません。
向いていることが多い園
- 土曜開所があり、その週だけ週40時間を超える職員がいる
- 行事の前後で、勤務時間の凸凹がはっきりしている
- 月ごとのシフトを、前月中に確定できる体制がある
急がなくてもよいかもしれない園
- 1日8時間・週5日で、ほとんどの職員が原則の枠に収まっている
- シフトが直前まで固まらず、月の途中で頻繁に動く
- 勤怠の集計を、まだ手作業で回している
とくに2つ目に心当たりがあるなら、先にシフトを前月中に確定させる運用をつくるほうが、順番としては近道です。制度は、確定したシフトがあってはじめて力を発揮します。
明日やること
明日ひとつだけやるなら、先月のシフト表を1枚出して、総枠と比べてみることです。5分ほどでできます。
【変形労働時間制 かんたん判定メモ】
■ 先月の暦日数: 日 → 総枠 = 40 × ÷ 7 = . 時間
(31日=177.1/30日=171.4/29日=165.7/28日=160.0)
■ 常勤職員を3人えらんで、先月のシフトの所定時間を合計する
職員A: 時間 → 総枠との差: 時間
職員B: 時間 → 総枠との差: 時間
職員C: 時間 → 総枠との差: 時間
■ 週40時間を超えた週が、先月いくつあったか: 週
■ その週の超過分に、実際に払った残業代: 円くらい
ここで、「ひと月の合計は総枠に収まっているのに、週単位では超えた週がある」という状態が見えたら、検討する価値があります。逆に、ひと月の合計そのものが総枠を超えているなら、制度の話ではなく勤務日数か人員の話なので、そちらを先に整理したほうが早いです。
数字が出たら、園長・主任と1回だけ共有してみてください。「入れるかどうか」を決める会議ではなく、「うちはどっちのタイプか」を確かめる5分で十分です。
確認チェックリスト
- 先月の暦日数から、ひと月の総枠を出してみたか
- 常勤職員数人の、先月の所定時間の合計を並べてみたか
- 週40時間を超えた週が、先月いくつあったか数えたか
- シフトを、月が始まる前に確定できる体制になっているか
- 対象にする職員の範囲(パートを含めるか)を決めたか
- 対象期間と起算日を、給与の締めとそろえて考えたか
- 勤務パターン(早番・遅番・土曜番)の始業・終業時刻を書き出したか
- 労使協定にするか就業規則にするか、方針を決めたか
- 届出(労使協定/就業規則)の要否を確認したか
- シフトを変更できる場面を、限定して書き出したか
- 予定を超えた分は時間外として計算する、と担当者間で共有したか
- 36協定が今の運用に合っているか、あわせて見直したか
- 18歳未満・妊産婦・育児介護を担う職員の取り扱いを確認したか
- 有給を取った日は所定時間を働いたものとして扱う、と給与担当と共有したか
- 勤怠システムの変形労働時間制の設定を確認したか(使っている場合)
- 職員への周知の方法と時期を決めたか

土曜の週だけ残業代が立つたびに、「なんとかならないかな」と思いながら、それでも毎月きちんと計算して払ってきた。その積み重ねがあるから、園の給与計算は今日まで滞りなく回ってきたのだと思います。
制度を入れるかどうかは、今日決めなくて大丈夫です。総枠と自園のシフトを並べて見た、そのひと手間だけで、これまでもやもやしていたものの正体はもう半分見えています。 見えたところから、ゆっくり整えていきましょう。
よければ、こちらも
シフトと労務まわりの記事を、いくつか置いています。
- 配置基準を満たすシフトの組み方、基本の手順
- 保育園の36協定と残業時間の管理、まず押さえる基本
- 保育園の早番・遅番、勤務時間と休憩の取り扱いを整理する
- 保育園の有給管理、年5日取得をシフトに組み込む手順