
保育園のICT導入、費用対効果を園長・法人に伝える資料のまとめ方
朝の欠席電話に追われ、月末は延長保育の集計で残業。「これ、アプリにしたら楽になるのに」と思って、勇気を出して園長に相談してみた。返ってきたのは、「便利なのはわかるけど、それでいくらかかって、何が良くなるの?」というひと言——。
その場ではうまく答えられず、「調べてみます」と引き下がった。そんな経験はありませんか。園長や法人が慎重になるのは当然です。毎月のお金が出ていく話ですし、うまくいかなかったときに現場が混乱するのも知っています。ICTに反対しているわけではなく、判断するための材料がほしいだけのことがほとんどです。
この記事では、その材料をA4・1枚の説明資料にまとめる手順を、一緒に整理していきます。
結論:ICT導入の費用対効果は、「ICT化は良いもの」という一般論ではなく、この園の、誰の、どの手間が、月に何時間減るかで伝えます。資料に入れるのは4つだけ。①困りごと(今いちばん手間がかかっている作業)②減る時間(作業ごとに「今」と「導入後の見込み」を並べる)③かかる費用(初期・月額・端末・慣れるまでの時間)④試し方(期間と、合わなければやめる基準)。この4つがそろうと、園長は「やる・やらない」ではなく「まず試すかどうか」を判断できるようになります。
何が起きているか|「便利そう」だけでは決められない理由
ICT導入の話が止まりやすいのは、提案する側と判断する側で、見えているものが違うからです。
- 事務・主任に見えているもの:毎日の電話、転記、集計、印刷。手間の正体がよく見えているので、「入れれば楽になる」は実感そのものです。
- 園長・法人に見えているもの:月額の利用料、端末の購入、職員が慣れるまでの混乱、うまくいかなかったときの責任。お金とリスクのほうがよく見えています。
提案する側が「楽になります」だけを伝えると、判断する側には「お金がかかる話」しか届きません。逆に、見積書だけを渡しても、何がどれだけ良くなるのかが見えないまま「高いね」で終わってしまいます。
費用と効果を、同じ1枚の上に並べる。それだけで、話がかみ合いはじめます。ここは現場でもつまずきやすいところですが、難しい計算は要りません。
手順を小さく分けます|説明資料をつくる4ステップ

1. 困りごと|「誰の、どの手間か」を1つに絞る
最初に書くのは、ツールの名前ではなく困りごとです。それも、できるだけ1つか2つに絞ります。
- 悪い例:「園の業務全体を効率化するため、保育ICTシステムを導入したい」
- 良い例:「毎朝7時半から8時半の欠席連絡の電話で、事務1名が約20分ずつ電話番になっている」
「誰の」「どの作業が」「いつ」の3つが入っていると、園長も情景を思い浮かべられます。困りごとを並べすぎると、どれが本命か見えなくなります。迷ったら、職員がいちばんため息をついている作業から選ぶのが近道です。
2. 減る時間|1〜2週間だけ、今の時間を測る
次に、困りごとにかかっている時間を数字にします。ここは記憶ではなく、1〜2週間だけ実際に測るのがおすすめです。「だいたい毎日30分くらい」と思っていた作業が、測ってみると15分だったり、逆に1時間近かったりします。
測り方は簡単で、作業の前後に時刻をメモするだけ。毎日でなくても、何日か測って平均を出せば十分です。
そのうえで、作業ごとに「今」と「導入後の見込み」を表にします。たとえば、こんな形です。
| 作業 | 今(月あたり) | 導入後の見込み(月あたり) | 減る時間 |
|---|---|---|---|
| 朝の欠席電話の受付 | 約6.7時間(1日20分×20日) | 約2時間(1日6分×20日) | 約4.7時間 |
| 登降園・延長保育の集計 | 4時間 | 1時間 | 3時間 |
| おたよりの印刷・配布 | 3時間 | 1時間 | 2時間 |
| 合計 | 約13.7時間 | 約4時間 | 約9.7時間 |
※数字は説明のための例です。園の規模や今のやり方で大きく変わるので、必ず自園で測った数字に置きかえてください。
この例なら、月に約9.7時間、年間ではおよそ116時間(9.7時間×12か月)の作業が減る見込みになります。
「導入後の見込み」は、多めに見積もらないのがコツです。控えめな数字で出しておくと、試したあとに「思ったより減った」と報告できます。逆に大きく見せると、少しでも下回ったときに信頼を失います。見込みに自信がないときは、導入を検討しているサービスの説明会や、すでに使っている近隣の園に「実際どのくらい減ったか」を聞いてみるのも手です。
欠席連絡の切り替え方そのものは、保育園の朝の欠席連絡|電話ラッシュを減らす受け方の切り替え手順に、登降園の集計は登降園を打刻アプリに切り替えるときの移行手順に整理しています。
3. かかる費用|月額だけでなく「見えにくい費用」も書く
費用は、見積書の金額だけでなく、導入から慣れるまでにかかるもの全部を並べます。書いておきたいのは次のとおりです。
- 初期費用:導入費・設定費・データ移行の費用があるか
- 月額(または年額)の利用料:園児数や職員数で変わるか、オプションは別料金か
- 端末:タブレットやICカードリーダーなどを買い足すか、今あるもので足りるか
- 通信環境:園内のWi-Fiが保育室まで届いているか、工事が要るか
- 慣れるまでの時間:研修・操作練習の時間、最初の1〜2か月の並行運用の手間
- やめるときの費用:解約の条件、データを取り出せるか
最後の2つは見落とされやすいのですが、園長がいちばん気にしているのは、たいていここです。先に書いておくと、「ちゃんと考えてくれている」と受け取ってもらいやすくなります。
あわせて、費用の欄に「減る費用」も書き添えましょう。たとえば、おたよりを配信に切り替えれば用紙・トナー代が、欠席連絡をアプリにすれば電話の受付にかかっていた時間がそれぞれ減ります。印刷費は、過去数か月の用紙・トナーの購入記録から月あたりを出すと根拠になります。
なお、ICT導入には自治体を通じた補助が用意されている年度もあります。対象になる経費や申請の時期は、年度や自治体によって変わるので、資料には「補助の対象になるか自治体に確認中」と書いておき、決めつけないのが安心です。複数社から見積もりを取るときの記録の残し方は、備品・設備の補助金、相見積もりと記録の残し方の基本が参考になります。
4. 試し方|期間と「やめる基準」を先に決める
最後に、どう試すかを書きます。ここがあると、提案が「大きな決断」から「小さな試行」に変わります。
- 期間:たとえば「無料お試し期間や最低契約期間の範囲で、1〜3か月」
- 範囲:全クラスではなく、1クラスや1つの機能から
- 測るもの:手順2で測った作業時間を、試行中にもう一度測る
- 続ける・やめる基準:「欠席電話の受付時間が半分以下になれば続ける」「職員の半数以上が使いにくいと感じたら見直す」など
- 報告の日:試行が終わったら、いつ園長に結果を伝えるか
「合わなければやめます」と先に書いておくのは、弱気に見えるかもしれません。でも、判断する側にとっては、引き返せる道があることがいちばんの安心材料です。紙とアプリの並行期間の組み方や、紙をやめる前に決めておきたいことは、紙の帳票をなくす前に決めておきたい保育園の運用ルールにまとめています。
そのまま使える説明資料のひな形
ここまでの4つを、A4・1枚にまとめるとこんな形になります。園の言葉に合わせて書きかえて使ってください。
【ご相談】欠席連絡・登降園のアプリ化について(試行のお願い)
1. 困りごと
毎朝7時半〜8時半の欠席連絡の電話対応で、事務1名が1日約20分電話番になっています。月末は延長保育の集計に約4時間かかり、残業の主な原因になっています。
2. 減る時間(見込み)
2週間測った結果をもとにすると、欠席電話・登降園集計・おたより配布を合わせて、月約13.7時間 → 約4時間(月約9.7時間減)の見込みです。見込みは控えめに見積もっています。
3. かかる費用
初期費用◯円、月額◯円(園児数◯名の場合)。タブレットは今ある2台で始められます。Wi-Fiは保育室まで届くことを確認済みです。慣れるまでの1か月は、紙と並行して運用します。減る費用として、おたよりの用紙・トナー代が月◯円ほど見込めます。補助の対象になるかは自治体に確認中です。
4. 試し方
3か月の最低契約期間の範囲で、まず欠席連絡の機能だけ試します。3か月目に作業時間をもう一度測り、電話対応の時間が半分以下になっていれば継続をご相談します。職員の負担が増えた場合は、紙に戻します。結果は◯月の職員会議前にご報告します。
金額や数字が入るところは、わからないものは「確認中」と書いて構いません。空欄を無理に埋めるより、何がわかっていて何がまだかを正直に示すほうが、判断する側は安心できます。
伝え方を変えると、何が変わるか
困りごと・減る時間・かかる費用・試し方の4つがそろうと、園長との会話は「入れる?入れない?」から、「どこから試そうか」に変わります。判断の重さが小さくなるので、話が前に進みやすくなります。
もうひとつ大きいのは、減った時間を何に使うかを、園全体で話せるようになることです。月に約10時間の余裕が生まれたら、その時間で残業を減らすのか、保育の記録を見直すのか、子どもと過ごす時間に回すのか。費用対効果の資料は、お金の話であると同時に、園の働き方をどうしたいかを話すきっかけにもなります。
反対に、数字のない「便利そうだから」の提案を続けていると、導入しても効果が見えず、「結局何が良くなったの?」と聞かれたときにまた答えに詰まってしまいます。導入前に測った数字は、導入後の振り返りにもそのまま使えます。職員にどう定着させていくかは、保育園のICT化が進まないとき|職員の抵抗を和らげて定着させる進め方もあわせてどうぞ。
確認チェックリスト
全部そろえるのは大変です。最低ラインは、①困りごとを1つに絞った②今の作業時間を測った③試す期間とやめる基準を決めた、の3点。費用の細かいところは、見積もりを取りながら埋めていけば十分です。
- 【最低ライン】困りごとを「誰の、どの作業か」で1〜2つに絞ったか
- 【最低ライン】今の作業時間を、1〜2週間ほど実際に測ったか
- 【最低ライン】試す期間と、続ける・やめる基準を書いたか
- 作業ごとに「今」と「導入後の見込み」を表にしたか
- 導入後の見込みを、控えめな数字で出したか
- 初期費用・月額だけでなく、端末・通信環境も確認したか
- 慣れるまでの時間と、並行運用の期間を書いたか
- 解約の条件と、データを取り出せるかを確認したか
- 用紙・トナー代など「減る費用」も書き添えたか
- 補助の対象になるか、自治体に確認したか(決めつけていないか)
- 1クラス・1機能など、小さな範囲から試す形にしたか
- 結果を報告する日を、先に決めておいたか
なお、どのサービスを選ぶかや、どこまでの機能を使うかは、園の規模や今の業務の流れによって変わります。困りごとに合うシステムの選び方は、保育ICTシステムの選び方:迷わないための比較ポイントで整理しています。

「いくらかかって、何が良くなるの?」と聞かれて答えに詰まったのは、準備が足りなかったからではありません。毎日の手間を肌で知っているからこそ、それを言葉や数字にする機会が、これまでなかっただけです。
作業の時間を測ってみようと思えた時点で、あなたはもう、ただ「楽になりたい」と言う人ではなく、園の時間の使い方を一緒に考えている人です。
一度に資料を仕上げなくて大丈夫です。まずは明日の朝、欠席電話の受付が何分かかったか、時計を見てメモしてみてください。その1行が、園長と同じ方向を向いて話すための最初の一歩になります。
よければ、こちらも
ICT化の提案から定着までを進めるときは、次の記事もあわせてどうぞ。
- 書類づくりを少し楽にするICT化の始め方
- 保育園のICT化が進まないとき|職員の抵抗を和らげて定着させる進め方
- 保育園の朝の欠席連絡|電話ラッシュを減らす受け方の切り替え手順
- 保育ICTシステムの選び方:迷わないための比較ポイント