保育園の事務室で、ノートパソコンと紙の給与計算表を見くらべながら、少し考えこんでいる事務職員

会計・給与ソフトの導入|手作業から移行する手順と並行稼働のコツ

毎月25日の前になると、表計算ソフトの給与表を開いて、残業時間を打ちこみ、手当を足して、社会保険料を引いて……。計算式がどこかで壊れていないか、何度も電卓で確かめる。会計のほうは手書きの帳簿をまとめて税理士さんに渡していて、「そろそろソフトにしたら」と言われているけれど、切り替えの途中で数字が合わなくなったらと思うと、なかなか踏み出せない——。

会計ソフトや給与ソフトへの切り替えは、園の事務の中でも「やったほうがいいのはわかっているけれど、怖い」仕事の代表です。毎月のお金に直結するので、慎重になるのは当然です。この記事では、手作業からソフトへ移るときの順番を、小さな段階に分けて一緒に整理します。

結論:ソフトへの移行は、①今のやり方を棚卸しする → ②ソフトに「園のルール」を登録する → ③1〜2か月は手作業と並べて同じ計算をする(並行稼働)→ ④差がなくなったら切り替える、の4段階で進めます。切り替えの時期は、会計は年度の始まり(4月)、給与は年の始まり(1月)か年度の始まりが区切りよく進めやすいタイミングです。いちばん大事なのは③の並行稼働で、ここで出た差を1つずつ直していけば、数字が合わなくなる不安はぐっと小さくなります。

手作業で毎月きちんと回してきたこと自体が、すでに大きな財産です。その計算のルールを、そのままソフトに引っ越すイメージで進めれば大丈夫です。

何が起きているか|手作業の「園のルール」が頭の中にある

手作業の給与計算や帳簿づけが長く続いている園では、次のような状態になっていることがよくあります。

ソフトに切り替えるのが怖いのは、ソフトそのものが難しいからではなく、こうした「書かれていない園のルール」をソフトに教えないといけないからです。逆にいうと、ルールを先に紙に書き出してしまえば、移行の大部分は終わったようなものです。

ソフトを入れると、たとえば次のようなことがラクになります。

ただし、ソフトを入れても「園のルール」を決めるのは園の側です。そこを先に整えるのが、この記事の中心です。

具体例|並行稼働の1か月目、3人分の差が見つかった

職員18人の園で、表計算ソフトの給与計算から給与ソフトに切り替えたときの例です(わかりやすいように、内容は一般化しています)。

10月から12月までをかけて準備し、まずは11月分と12月分の給与を、表計算ソフトとソフトの両方で計算しました。11月分を並べてみると、18人のうち15人は1円単位まで一致。差が出たのは3人でした。

差が出た職員差の原因直したところ
Aさん(パート)残業代の1円未満の端数を、表計算ソフトは「切り上げ」、ソフトは「四捨五入」で計算していた園の賃金規程を確かめ、ソフトの端数処理の設定を規程に合わせた
Bさん(常勤)通勤手当を、ソフトでは課税の手当として登録してしまっていた手当の設定を見直し、非課税の通勤手当として登録し直した
Cさん(常勤)扶養している家族の人数がソフトに登録されておらず、源泉所得税が多く計算されていた扶養控除等申告書を見ながら、扶養の人数を登録し直した

3人とも、ソフトの計算が間違っていたのではなく、園のルールの登録が足りなかったのが原因でした。12月分では18人全員が一致したので、1月分からソフトだけの運用に切り替えています。

この園の事務の方が言っていたのは、「差が出たときは焦ったけれど、原因がわかるたびに、ずっと頭の中にあったルールが1つずつ紙に残っていった」ということでした。並行稼働は、ソフトを試す期間であると同時に、園のルールを見える形にする期間でもあります。

影響|「わたししかわからない」が少しずつ減っていく

移行がうまくいくと、毎月の時間が減るだけでなく、こんな変化が出てきます。

一方で、準備を急ぎすぎると、並行稼働をしないまま切り替えて、支給日の直前に差に気づく……ということも起こりやすくなります。切り替えは、カレンダーに余裕をもって。これだけで、移行の怖さはずいぶん小さくなります。

明日やること|4つの段階を小さく進める

左に紙の書類を書き出す机の絵と「棚卸し」、中央に紙の表とパソコンを並べて見くらべる絵と「並行稼働」、右にパソコンだけになった机の絵と「切り替え」のラベルを並べた図
まず園のルールを書き出し、手作業とソフトを並べて同じ計算をしてから、差がなくなったところで切り替えます。

1. 棚卸し|今のやり方を紙に書き出す

最初はソフトを選ぶ前に、今のやり方を書き出します。全部を一度に書かなくて大丈夫です。まずは次の3つから。

賃金規程や就業規則と照らし合わせて、書き出したルールと規程が食い違っていないかも見ておきます。勤怠から給与までの毎月の流れは、保育園の勤怠から給与計算まで、締め日から支給日までの流れ も参考になります。

2. ソフトを選び、「園のルール」を登録する

ソフトを選ぶときは、機能の多さより、園の形に合うかを確かめます。

選ぶ前に、顧問の税理士さんや社労士さんに「このソフトで困ることはありますか」と一度聞いておくと安心です。ICTシステム全般の比べ方は、保育ICTシステムの選び方:迷わないための比較ポイント にまとめています。

ソフトが決まったら、1で書き出したルールを登録します。職員の情報、手当の種類、端数処理、勘定科目、期首の残高(会計なら切り替え時点の預金や現金の残高)などです。

3. 並行稼働|1〜2か月は手作業と同じ計算をする

ここが移行のいちばん大事な段階です。手作業の計算はそのまま続けながら、同じ月の数字をソフトでも計算し、結果を並べます。

差がゼロになる月が来るまで、支給や報告には手作業の数字を使うのが安心です。1か月で合わなければ、もう1か月延ばして大丈夫です。

4. 切り替え|区切りのよい月から、ソフトだけにする

並行稼働で差がなくなったら、区切りのよい月からソフトだけの運用にします。

切り替えたあとも、表計算ソフトや帳簿の元データは消さずに、決められた保存期間のあいだ残しておきます。保存のルールは、文書の保存年限一覧を作って、監査前の探し物を減らす で確かめられます。ソフトにログインする人とパスワードの管理も、このタイミングで決めておくと安心です(保育園のパスワード管理|職員で安全にアカウントを共有する整え方)。

確認チェックリスト

最低ラインは、①今の計算ルールを書き出している ②並行稼働で差がなくなってから切り替える、の2点です。ほかは、できるところから少しずつで十分です。

なお、ソフトの機能や料金、法改正への対応のしかたは、提供元や契約プランによって違います。導入の前に、最新の案内や無料の試用版で確かめてください。社会福祉法人の会計処理や、税・社会保険の細かい取り扱いは、顧問の税理士さん・社労士さん、法人本部に確認しながら進めてください。

朝の保育園の事務室で、パソコンの前に座った事務職員が、となりの同僚に画面を見せながら笑顔で話している場面
ルールが紙とソフトに残れば、毎月の計算は「わたしだけの仕事」から「みんなで回せる仕事」に変わります。

毎月の給与や帳簿を、手作業で間違えずに回してきた。それは、職員の生活と園のお金を、静かに守り続けてきたということです。ソフトへの移行は、その丁寧な仕事を手放すことではなく、あなたの頭の中にあったルールを、園の財産として残すことでもあります。

一度に全部切り替えなくて大丈夫です。今月は、手当の一覧を1枚書き出すところまで。来月はそれをソフトに入れて、手作業と並べてみる。その一歩ずつで、移行はちゃんと進んでいきます。

まずは、給与表の手当の列を、紙に書き写すことから始めてみましょう。

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毎月のお金の流れと、事務のデジタル化を整える記事を置いています。

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