事務室のパソコンの前で、モニターのふちに貼られた何枚もの付箋を見ながら少し困った顔をしている保育園の事務担当者

保育園のパスワード管理|職員で安全にアカウントを共有する整え方

パソコンのモニターに、付箋が何枚か貼られていませんか。

事務室の引き出しの奥に、折りたたんだメモが一枚。表紙の裏に鉛筆で書き足された、ノートの端っこ。そして「あれ、写真販売のパスワードって、どこに書いたっけ」と探しはじめる午後。

ICT化が進むほど、園のアカウントは静かに増えていきます。保育記録のシステム、給食の発注、写真販売、自治体の電子申請、園のメール、Wi-Fi、会計ソフト。気がつくと、そのほとんどが事務のあなたの頭の中と、机まわりのメモに集まっている。これは、あなたの管理がずさんだからではありません。増え方が早すぎて、置き場所を決める時間がなかっただけです。

結論:やることは3つだけです。①棚卸し(園にいくつアカウントがあるか、一覧に書き出す)、②「誰が使うか」で3つに分ける(園でひとつ/職員ごと/事務だけ)、③置き場所を1か所に決めて、人が入るとき・辞めるときにやることを決めておく。全部を今日やらなくて大丈夫です。①だけで、かなり見通しがよくなります。

そしてもうひとつ。この整理のいちばんの目的は、防犯だけではありません。あなたが休んだ日に、園が止まらないようにすることです。そこから始めると、話が驚くほど進みやすくなります。順番に見ていきましょう。

なぜ、園のアカウントは増えていくのか

責任者が決まらないまま増えるのには、園ならではの事情があります。

1. 導入した人が、そのまま管理者になっている

ICTシステムを入れたとき、初期設定をしたのは事務か園長です。そのまま管理者アカウント(設定を変えられる権限を持つID)が引き継がれず、「導入担当=管理者」が固定されます。

2. サービスごとに、ばらばらに増える

保育記録、給食、写真、電子申請。それぞれ別の会社のサービスなので、導入時期も、パスワードのルールも、更新のタイミングもそろいません。まとめて管理する場所が最初から用意されていないんです。

3. 「共有していい」が、どこにも書かれていない

職員に聞かれたとき、その場で口頭で伝える。悪気はまったくないのですが、これが積み重なると誰がどれを知っているか、誰も分からない状態になります。

4. 辞めた職員のアカウントが、そのまま残る

保育は人の出入りがある職場です。退職のときはシフトも引き継ぎも書類も一度に来るので、アカウントの停止までは手が回りません。これは、ほとんどの園で起きています。

この4つは、どれも「気をつけていれば防げる」たぐいのものではありません。決めていないから起きているだけです。だから、決めれば止まります。

まず、棚卸しをする

最初にやるのは、増やさない工夫ではなく、いま何があるかを見えるようにすることです。これは30分ほどで終わります。

紙でもエクセルでもかまいません。園で使っているサービスを、思いつく順に書き出します。

園のアカウントを3つに分けた図。共有タブレットを一緒に見る場面、職員がそれぞれ端末を持つ場面、事務室で担当者が一人でパソコンに向かう場面
「園でひとつ」「職員ごと」「事務だけ」。誰が使うかで分けると、置き場所と守り方が決まります。

一覧に書く6つの項目

この段階では、パスワードそのものは書きません。何があるかの地図をつくるだけです。

項目書くこと
サービス名保育記録システム、写真販売、電子申請 など
何に使うか日誌・指導計画、行事写真の販売 など
誰が使うか全職員/担任のみ/事務と園長のみ
アカウントの種類園でひとつ/職員ごと/事務だけ
管理者は誰か設定変更や職員の追加ができる人
契約・請求の担当更新月、支払い方法

書き出してみると、たいてい2つのことに気づきます。思っていたより数が多いことと、管理者の欄が自分の名前ばかりになっていることです。

この一覧は、それ自体が引き継ぎ資料になります。園の書類やデータの置き場所を整えるときの考え方は 保育園の個人情報、保管と共有のルールを整える基本 にまとめています。

「誰が使うか」で3つに分ける

ここが、いちばん効くところです。アカウントを一律に扱おうとすると必ず無理が出ます。使う人の広さで3つに分けると、置き場所も守り方も自然に決まります。

① 園でひとつ(共有アカウント)

園の代表メール、Wi-Fi、玄関の電子錠、給食の発注サイトなど。職員が誰でも使う前提のものです。

② 職員ごと(個人アカウント)

保育記録システムの各職員のID、出退勤の打刻、園のチャットなど。誰が入力したかが記録に残るものは、ここに入れます。

打刻アプリや記録アプリへの移行そのものは 出退勤の打刻をアプリに移すときの進め方、職員間の連絡の整え方は 保育園の職員間の情報共有|チャットで申し送りもれを減らす整え方 を参考にしてください。

③ 事務だけ(管理アカウント)

システムの管理者権限、会計ソフト、自治体の電子申請、ネットバンキング、写真販売の売上管理など。お金と個人情報に直接つながるものです。

3つに分けたら、一覧の「アカウントの種類」欄を埋めていきます。迷ったら、記録に名前が残るかどうかで判断すると、だいたい合います。

置き場所を決める

分けたら、次は置き場所です。ここでよくあるのが「付箋をやめましょう」で終わってしまうパターンなのですが、やめる前に、代わりの置き場所を先につくるのが順番です。行き先を決めずに剥がすと、結局また別のメモが生まれます。

紙の台帳でも、まずは十分

いきなりツールを入れなくて大丈夫です。鍵のかかる場所に置いた一冊のノートでも、付箋よりずっと安全です。

紙のいいところは、職員の誰でも扱い方が分かることです。園のICT化は、まわる形から始めて、あとから精度を上げるほうがうまくいきます。この考え方は 書類づくりを少し楽にするICT化の始め方 にも通じます。

パスワード管理ツールを使うなら

職員数が多い園や、サービスの数が10を超えてきた園では、パスワード管理ツール(IDとパスワードをまとめて保管し、必要な人にだけ見せられるソフト)が向いています。園で使うときの選び方は、この3つです。

導入するときは、いきなり全部を入れず、まず「事務だけ」のアカウントから移すと失敗しにくいです。システムそのものの選び方は 保育ICTシステムの比較、園に合うものの選び方 にまとめています。

付箋を剥がすのは、いちばん最後

台帳ができて、必要な人が中身を見られる状態になってから剥がします。順番を逆にすると、朝いちばんに「入れません」という声がかかります。

パスワードの決め方、いまの考え方

ここは、少し前の常識と変わってきたところです。

以前はよく「定期的に変更しましょう」と言われていました。ただ、定期変更を一律に求めると、かえって単純なパスワード(末尾の数字だけを増やすなど)に流れやすいことが分かってきて、いまは総務省の国民向け解説サイトなどでも、流出などの心配がなければ定期変更は必須としないという説明に変わっています。もし園の内規に「3か月ごとに変更」と書いてあるなら、見直しの検討対象になります。

いま重視されているのは、次の3つです。

1. 使い回さない

いちばん大事なのはこれです。1つのサービスから流出したIDとパスワードの組み合わせが、他のサービスで試されることがあります。園のアカウントに、職員が個人で使っているパスワードを使わない。これだけでも守りがかなり違います。

2. 短い複雑さより、長さ

記号を混ぜた8文字より、意味のある単語を並べた15文字前後のほうが、覚えやすく破られにくいとされています。園の言葉を組み合わせて、その園にしか分からない並びにするのがおすすめです。

3. 二段階認証を、大事なものだけでも入れる

二段階認証(パスワードに加えて、スマホに届く番号などでもう一度確認する仕組み)は、「事務だけ」のアカウントから入れると効果が高いです。会計ソフト、ネットバンキング、自治体の電子申請あたりが最優先です。

ただし、二段階認証には注意点があります。受け取る先を1人の個人スマホだけにしないこと。その人が休むと誰も入れなくなります。園の共有端末を受け取り先にする、または受け取れる人を2人にする設定ができないか、確認してみてください。

人が入るとき、辞めるとき

アカウント管理でいちばん抜けやすいのが、ここです。逆にいうと、入職・退職の手続き一覧にアカウントの行を足すだけで、かなりの部分が自動的に片づきます。

入職のときにやること

退職のときにやること

記録が消えるかどうかは、停止の前にサービス提供会社に確認してください。保育記録や日誌は保存年限のある書類とつながっているので、ここは慎重に進めます。書類の保存年限は 保育園の文書保存年限一覧、入退職の事務全体の流れは 職員の入職・退職手続き、園の事務でやることの順番 にまとめています。

事務が休んだ日でも、園が止まらないように

最後に、いちばんお伝えしたいことです。

アカウント管理の話は、どうしても「守り」の話になりがちです。でも園の事務にとって、もっと現実的で切実なのは属人化のほうだと思います。

これは、あなたが抱え込んでいるからではありません。渡す場所が決まっていないから、渡せなかっただけです。

だから、園長や主任にこの話を持っていくときは、「セキュリティが心配で」ではなく、こう言ってみてください。

「私が休んだときに園が止まらないように、ログイン情報の置き場所を決めておきたいのですが」

この言い方だと、話が通りやすいです。相手にとっても他人事ではなくなりますし、実際、それが本当の目的だからです。

最低限、「事務だけ」のアカウントは、園長ともう1人が入れる状態にしておく。ここまでできていれば、多くのことは何とかなります。監査で書類やデータの管理体制を聞かれたときも、この一覧がそのまま説明の材料になります(監査・指導で聞かれることと書類の準備)。

明日やること

明日ひとつだけやるなら、園で使っているサービスの名前を、紙に書き出すことです。

パスワードは書かなくてかまいません。「保育記録システム」「給食発注」「写真販売」「電子申請」「園のメール」。10分あれば、たぶん書けます。書き出したものを眺めて、管理者の欄が自分の名前だけになっているものに、丸をつける。今日はそこまでで十分です。

余力があればもう一つ。その丸をつけたものの中からいちばん困るもの1つだけを選んで、園長に「これ、私が休んだとき入れますか」と聞いてみてください。この一言が、いちばん現実を動かします。

チェックリスト(コピーして使えます)

園のアカウントを整えるときの確認項目です。上から順に進めると、無理なく形になります。

棚卸し

3つに分ける

置き場所

パスワードの決め方

人の出入り

止まらないために

事務室で、事務担当者と園長が一冊のノートを開いて一緒に確認し、穏やかに笑っている場面

付箋が貼られているのは、あなたが雑だからではありません。園を止めないために、その場でいちばん早い方法を選び続けてきた結果です。ここまで一人で回してきたこと自体が、園を支えてきた仕事だと思います。

だから今日は、剥がさなくていいです。まず、書き出すところから。置き場所ができれば、付箋は自然に役目を終えます。

よければ、こちらも

園のデータと書類まわりの記事を、いくつか置いています。

関連用語